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広島地方裁判所 昭和53年(ワ)867号 判決

原告

新里智子

ほか一名

被告

有限会社新生タクシー

主文

被告は原告両名に対しそれぞれ金八〇万四一七九円及び各内金七〇万四一七九円に対する昭和五一年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの、その一を被告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告両名に対しそれぞれ金八二五万円及び各内金七五〇万円に対する昭和五一年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの地位

原告らは訴外長尾憲幸の子であり昭和五〇年一〇月一七日の同人の死亡により同人の後記損害賠償請求権をそれぞれ相続分二分の一の割合で相続したものである。

2  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五〇年一〇月一七日午前〇時三〇分

(二) 発生場所 広島市南区段原日出町一七の四 中本カメラ店前路上

(三)加害車両 (番号)広島五五け六五七六

(所有者)被告

(運転者)訴外大谷岩男

(四) 事故の態様 加害車両が訴外長尾の運転するオートバイに衝突した。

(五) 訴外長尾の受けた傷害(死亡)

頭蓋底骨折兼脳内出血により同日山田外科病院で死亡した。

3  被告の責任

被告は加害車両の所有者であり自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条による責任を免れない。

4  損害

(一) 訴外長尾の損害

(逸失利益) 金三七八〇万六一〇〇円

事故当時同人は三四歳であり、その後の就労可能年数は三三年(ホフマン係数は一九・一八三)であるから、生活費控除率の三割を控除し、昭和五二年賃金センサスにより算出する。

一八万三二〇〇円×一二(月)+六一万六九〇〇円×一九・一八四×〇・七=三七八〇万六一〇〇円

(慰藉料) 金一五〇〇万円

(二) 原告両名の損害

(固有の慰藉料) 金四〇〇万円

原告両名につきそれぞれ金二〇〇万円が相当である。

(三) 損害の填補 金一五〇〇万円

(四) 以上合計 金四一八〇万六一〇〇円

但し、原告両名につき各金二〇九〇万三〇五〇円であるところ、それぞれ内金七五〇万円を請求する。

(五) 弁護士費用 金一五〇万円

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は不知。

2  同2は認める。

3  同3につき、被告が訴外大谷運転のタクシーの運行供用者であつたことは認めるが、責任は否認する。

4  同4につき、原告ら主張の損害は争う。自賠責死亡保険金一五〇〇万円が支払われたことは認める。

三  抗弁(免責及び過失相殺)

本件事故のとき、訴外亡長尾は血液一ミリリツトルにつき約一・七二ミリグラムのアルコールを含有する状態にあつたのであるから、運転すべきでないこと当然であるに拘らず、バイクを運転していたのである。

訴外亡長尾はバイクを運転し、一時停止の道路標識、道路標示があるのに一時停止せず、交差点における左方車優先も無視し、被告タクシーが走行していた道路の方が主要な道路であるのに、ヘルメツトをかぶつていたら死亡してはいないであろうにヘルメツトもかぶらず、被告タクシーの走行していた道路上の安全を確かめることなく、事故現場交差点に進入し、被告タクシーの進路直前に飛び出したのである。

本件事故は訴外亡長尾の一方的過失によつて発生したものであり、タクシーを運転していた訴外大谷には過失はなかつた。また被告会社にも過失はなかつた。そして、タクシーには構造上の欠陥又は機能の障害もなかつた。

よつて、被告は免責、仮に免責は認められないとするも、少なくとも大幅な過失相殺が認められて然るべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

被告車の運転者大谷は、本件現場において漫然と道路中央やや左寄りを走行し、急制動の措置も不充分であり、スピード違反も指摘できる。

被害者のアルコール含有量については過失相殺の対象事実とすべきでない。事故当時一時停止の交通規制が行われていたか否か疑わしく、停止線は停止義務を裏づけるものではない。被告車の道路に中央線がなく、両道路の幅員から見て、被告車の道路は優先道路ではない。

慰藉料は過失相殺の対象から外すべきである。

第三証拠〔略〕

理由

原告ら主張の事故の発生、被告が訴外大谷運転のタクシーの運行供用者であつたこと、及び原告らに対し自賠責死亡保険金一五〇〇万円が支払われたことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一号証、乙第一ないし第五号証、証人大谷岩男の証言により成立を認める乙第六号証の一ないし五(一部)、同証言(一部)、証人長尾明の証言によれば次のとおりの事実が認められ、証人大谷岩男の証言中この認定に反する部分は措信できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

本件事故当時亡長尾憲幸は三四歳で、昭和四四年から本件事故現場近くで寿司店を一人で経営していた。寿司店は三坪程度で、八、九人座れるスタンドがあり、相応の経営状態であつた。亡長尾は昭和四六年原告らの母と協議離婚したが、実子の原告らに対し毎月四万円程度送金していた。

昭和五〇年一〇月一七日午前零時過亡長尾は時速約三〇キロメートルで原動機付自転車を運転して東方東大橋方面から本件交差点に差しかかつた。当時亡長尾は血液一ミリリツトルにつき約一・七二ミリグラムのアルコールを含有する程度に酒に酔つていた。本件交差点は、南方東雲本町方面から北方段原末広町方面に向うアスフアルト舗装(一部コンクリート舗装)された幅七メートルの中央線の標示のない道路と、亡長尾の進行してきた東方東大橋方面からの幅七・五メートルの道路が丁字型に交差していた。亡長尾は右交差点を左折する意図であり、若干左折しかけたもののほぼ直線に東雲本町方面からの道路の真中に進入した。東大橋方面から交差点に入る手前道路上には停止線の標示があつたが、亡長尾はそのままの速度で進入したものである。他方、訴外大谷は時速四〇キロメートルで普通乗用車を運転して東雲本町方面から進行してきたが、右前方の見とおしが悪いにもかかわらず徐行し或いは右方の安全確認をすることなく道路中央部を進行し、交差点に進入しようとする亡長尾車を約九・九メートル右前方にはじめて認めたが、なお、制動、転把することなく七・五メートル進行し、道路中央部で亡長尾車と衝突した。

亡長尾車は左前フオーク等が破損し、被告車は右前バンパー、フエンダー、スカート、ボンネツト等が破損し、亡長尾は頭蓋底骨折兼脳内出血でまもなく死亡した。

以上のとおり認められ、前記のような丁字型交差点中央に時速約三〇キロメートルの速度でほぼ直線に進入した亡長尾の過失がきわめて大であることはいうまでもないが(亡長尾のヘルメツト不着用が本件事故の原因であるか否かは明らかでない。)、訴外大谷としても、道路左寄りを速度を落して進行し、より早く原告車を認めて制動或いは転把の措置をとつておれば、亡長尾死亡のような結果を避けることが不可能であつたとは考えられないからその余の点について判断するまでもなく、免責の主張は理由がない。亡長尾の右過失を斟酌すると、被告は同人死亡による損害の三分の一を負担すべきものとするのが相当である。

前記認定の亡長尾の稼働状況からすると、亡長尾は男子労働者の平均賃金を下らない収入を得ていたものと推定されるから、亡長尾の逸失利益は、二三七万〇八〇〇円(昭和五〇年度平均賃金)×一・八六一(二年のホフマン係数)+二八一万五三〇〇円(昭和五二年度平均賃金)×一七・三二二(三三年のホフマン係数から二年のそれを控除したもの)=五三一七万八六八四円から生活費三〇パーセントを控除した三七二二万五〇七八円となる。

そして、原告らの父である亡長尾死亡による慰藉料は一二〇〇万円が相当である。

亡長尾死亡による損害は計四九二二万五〇七八円となり、その三分の一は一六四〇万八三五九円であり(慰藉料も過失相殺の対象とするのが相当である。)、これから既払分一五〇〇万円を控除すると、一四〇万八三五九円となる。

従つて、原告らは各自被告に対し七〇万四一七九円を請求し得ることとなるが、弁護士費用は右金額及び訴訟の経緯に照し原告ら各自につき一〇万円を相当と認める。

以上の次第で、被告は原告両名に対しそれぞれ金八〇万四一七九円及び各内金七〇万四一七九円に対する本件事故日の後である昭和五一年一月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金支払の義務があるから、原告らの本訴請求は右の限度で認容し、その余は棄却し、民訴法八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大前和俊)

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